血液検査で原因となる食材が分かるのでしょうか
愛犬の皮膚のかゆみや慢性的な外耳炎、繰り返す消化器症状などで来院された際、「食物アレルギーではないでしょうか?」というご相談を受けることがあります。
食物アレルギーを調べる検査として、血液中の食物特異的IgE抗体を測定する検査があります。
複数の食材について一度に調べることができ、検査結果も数値や一覧表で示されるため、原因となる食材を特定できるように感じるかもしれません。
しかし、この検査結果は、本当に食物アレルギーの原因を示しているのでしょうか。
IgE検査の陽性は、食物アレルギーの確定ではありません
食物特異的IgE検査は、特定の食材に対するIgE抗体が血液中に存在するかを調べる検査です。
しかし、抗体が検出されたことと、その食材を食べることで実際にアレルギー症状が起こることは同じではありません。
検査で陽性になっても、実際には問題なく食べられることがあります。
反対に、検査で陰性であっても食物アレルギーを否定することはできません。
つまり、検査結果だけを根拠に、食べてはいけない食材を決めることには限界があります。
論文で報告されている検査精度
犬の食物アレルギーについて、血清中の食物特異的IgEと、除去食試験・食物負荷試験の結果を比較した研究があります。
Bethlehemらの2012年の研究では、血清食物特異的IgE検査について、次のような診断性能が報告されています。
- 感度:6.7%
- 特異度:91.4%
- 陽性的中率:15.4%
- 陰性的中率:80.7%
この研究結果では、実際に食物アレルギーがある犬をIgE検査で検出する能力は低く、陽性という結果が出ても、その食材が本当に症状の原因である可能性は高くありませんでした。
また、複数の研究を評価したレビューでも、血清IgE検査を食物有害反応の確定診断に利用することは推奨されていません。
では、どうやって食物アレルギーを診断するのでしょうか?
現在、犬の食物アレルギーを診断するための基本は、除去食試験と食物負荷試験です。
1.除去食試験
これまで食べていた食材を避け、適切に選択した療法食や新奇タンパク食などを一定期間与えます。
通常、皮膚症状では8週間程度を目安に評価します。
この期間は、指定された食事以外のおやつや人の食べ物なども原則として避ける必要があります。
2.食物負荷試験
除去食によって症状が改善した場合、以前食べていた食事や個々の食材を再び与えます。
その結果、症状が再発するかを確認します。
食事を変えて症状が改善したというだけでは、食物アレルギーと確定することはできません。
食物負荷試験によって症状の再発を確認することが、診断において重要です。
当院の考え方
血液検査は、実施できる検査であれば何でも行えばよいというものではありません。
大切なのは、その検査が診断にどれだけ役立ち、結果によって治療方針が適切に変わるかということです。
食物特異的IgE検査は、検査項目が多く、一度に複数の食材を調べることができます。しかし、検査費用に見合うだけの診断上の利益が得られるとは限りません。
当院では、検査結果の数字だけで食べられる食材と食べられない食材を判断することはせず、実際の症状、これまでの食事内容、除去食試験、必要に応じた食物負荷試験を重視します。
検査を受けること自体が目的ではありません。
愛犬に不必要な食事制限をさせず、適切な食事管理と治療につなげること。それが私たちの大切にしている考え方です。
参考文献
Bethlehem S, et al. Patch testing and allergen-specific serum IgE and IgG antibodies in the diagnosis of canine adverse food reactions. Veterinary Immunology and Immunopathology. 2012;145:582–589.
Mueller RS, et al. Testing for food-specific antibodies in saliva and blood of food allergic and healthy dogs. The Veterinary Journal. 2019;245:1–6.